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【ポイント】
【概要説明】
公益財団法人がん研究会 がん研究所がん生物部 斉藤典子部長、渡邉健司博士研究員、同じくがん化学療法センター 分子薬理部 旦慎吾部長、熊本大学 発生医学研究所 細胞医学分野 中尾光善教授および日野信次朗准教授、量子科学技術研究開発機構 櫻庭俊サブチームリーダー、河野秀俊副所長、PhytoMol-Tech Inc. 落合孝次代表らの共同研究グループは、乳がんにおいてミトコンドリアを標的とする低分子化合物が、がん特異的にBRCA1/2を失わせ、PARP阻害剤が効くようになることを初めて解明しました。
がんでは、エネルギー代謝の異常や、傷ついたDNAが増えることが知られています。
BRCA1/2は相同組み換え(注1)という方法で損傷DNAを修復するタンパク質で、PARP(ポリADPリボシル化酵素)と補完的に働きます。そのためPARP阻害薬は、BRCA1/2遺伝子に変異がある乳がんの増殖を抑え、これは「合成致死」(注2)とよばれます。しかしBRCA1/2変異がんの割合は少なく、大多数のがんに対してPARP阻害薬が効くようにする方法の開発が望まれていました。
本研究では、発芽大豆由来の低分子化合物グリセオリンIが、ミトコンドリアを阻害し、それにより乳がん細胞では、がん代謝物である乳酸が過剰産生され、BRCA1/2遺伝子の発現が抑制されることを見出しました。BRCA1/2変異がないにもかかわらず、相同組み換え能が低い状態「BRCAness」をもたらしますが、これは、正常細胞ではおきません。
重要なことに、PARP阻害剤をグリセオリンIと組み合わせ投与することで、BRCA1/2変異を持たない乳がん細胞でも増殖を抑えることができました。同じ効果は別のミトコンドリア阻害剤のメトホルミンやフェンホルミンにも確認されました。
本研究はミトコンドリアを標的とする低分子化合物が、がん特異的にBRCA1/2を失わせ、PARP阻害剤が効くようになることを見出しました。ミトコンドリア標的薬とPARP阻害剤を併用することで、がんを治療できる新しい可能性を提案します。
本研究の成果は、Science Signaling誌に、2024年11月13日付で公開されました。
【用語解説】
(注1)相同組み換え
配列の類似したDNA 間で起きるDNAの組み換え反応。細胞核内で二本鎖DNAの双方ともが切断された場合、相同配列を鋳型にしてこの活性でDNA配列が正確に修復される。
(注2)合成致死
2つの遺伝子が同じ機能の別経路に働くなどの理由により、片方の遺伝子の変異では細胞が死なないが、両方の遺伝子に変異が入ると致死となる現象。がんに特徴的な遺伝子変異を標的にした合成致死療法は、がん
に特異的で副作用が少ないことが期待される。
【論文情報】
【詳細】 プレスリリース (PDF715KB)